僕による僕のための君へのわがまま。
「……山陽。」
「なあに?東海道ちゃん?」
「ここに座れ。」
瞬間、首根っこひっつかまれて、無理矢理ソファーに座らされた。というより押し込まれた、の表現の方が正しい。
「いやーん。東海道ちゃん。乱暴は良くないわよ?」
「巫山戯るな」
いつもみたいにおどけて見せたら、軽くあしらわれるどころか、凄い形相で睨んできた。
東海道の目が尋常じゃない、なんか知らんがもの凄く怒ってるぞこりゃ。
最近、何かやらかしたっけ?つっても、雪で遅延した位しか思い当たらねーし…。そんなの日常茶飯事だしなあ。
第一遅延するのはこいつの方が多いし…。
こいつが怒っている理由が思い当たらなくて、うーん。と首を傾げてると
「脱げ。」
は?今、何と仰いましたか。
「脱げと言ってる。」
一体どうしたんだ東海道よ。
何がなんだか解らず呆気にとられていると、東海道の奴は「ちっ」とか舌打ちして、俺の制服を破らんばかりの勢いで強引に脱がしにかかってきた。
「い、いやマテ、早まるな東海道!ここは神聖な総合司令所の一角だぞ!」
「やかましい!とっとと脱がんか!」
今日のこいつは、いつも以上にアグレッシブルだ。ていうか怖い。おかしい、絶対どこかおかしい。
オマケに最悪なことに今の東海道を宥められそうな人材がいない。現在この部屋には俺達しかいないのだ。
「うわー!タイムタイム!ちょっと落ち着け東海道!」
俺はボケるのも忘れ、馬乗りになって俺の上着に手をかける東海道に必死に抵抗する。他人が見たらいらん誤解を招く体勢だ。
「ちょっ…!マジでやめろって、東海道!嫌ぁ…!」
「黙れ山陽!大人しくしてろ!」
本気で恐怖を覚えた俺は柄にもなく、これまた他人が聞いたらいらん誤解を招きそうな叫び声をあげた。
こいつは負のオーラを纏うことは年中あるが、長い付き合いの俺をも恐怖に陥れる程の怒りのオーラを纏った事は殆んどない。
−それに、こいつの前で身体を晒す事だけは絶ッ対に拒否だ。
5分程の攻防の末、なんとか荒ぶる東海道を押し留め、落ち着かせる事が出来た。
「と、東海道っ…!今日のおま…、なん…」
―東海道!今日のお前何か変だぞ?!
そう言いたかったのに、体力を使い果たしたせいか声が出なかった。
たった5分で数時間乱れたダイヤを取り戻す位の体力を消耗した気がしたぞ。
一方の俺の体力を消費させた張本人(東海道)は、顔を俯かせて押し黙っている。
さっきとはまるで別人の様に大人しい。…これはこれで不気味で怖いものがある。
だが、下手に刺激してまた暴れられても困る、俺は自らの呼吸を整えながら東海道の口が開かれるのをじっと待った。
「…山陽…」
程なくして、東海道が口を開いた。
「何故、隠してた。」
さっきの暴れぶりが信じられないぐらい静かで冷たい声。
……さっぱり解らん。言葉の意味も、こいつのいきなりな態度も。
「はぁ?一体、なんの事よ?」俺は肩を竦めてみせた。
「惚けるのも大概にしろ。」
俺は全部知ってるんだぞ。−そう言って東海道は顔を上げ、俺の胸を指差す。
「お前の身体、傷だらけだそうだな。」
「……。」
−その一言で全て理解出来てしまった。何故こいつが怒っているのか。
俺の沈黙を肯定と受け止めたんだろう、東海道は更に追及にかかる。
「もう一度聞くぞ、何故俺に隠してた。」
「…別に」
こいつの迫力に気圧されたのか、それとも−。とにかく、さっきとは違う意味で声が出せなかった。
「山陽。」
東海道の声はまた冷ややかだった。
「…別に隠しちゃいねーよ。言う必要がないと思っただけ。
俺達は高速で移動すんだから、細かい傷が出来ることなんてしょっちゅうだろうが。
大した傷でもないし、んな事をいちいち言ってらんないだろ?」
東海道の追求を振り払う様に、俺は一気に答える。
言葉の途中から、俺はどうしてだか東海道の顔が直視できなくて、顔を反らしてしまった。
まるで親に叱られて顔を見られない拗ねた子供みたいに。
「なら、俺に見せてみろ。」
―う。
「大した傷でないなら、俺に見せられる筈だな?」
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多分続くはず…(滅)
以前、何処かのニュース記事で山陽新幹線の車両は傷だらけというのを読んで
山陽上官は、顔で笑ってココロは傷だらけなんだけど、
それを我慢してこっそり東海道上官を支えてあげてるんだよ!
…とか妄想して書いた小ネタです。
東海道上官は、山陽上官に対して、他の上官さんとはまた別の情を持ってるといいと思うんだ…!
2008/05/17