その影で僕は遠い彼を見る。
廊下ですれ違いざま、その違和感が気になって何となく口にした。
「あれ、有楽町。そのYシャツ、制服のと違うんじゃない?」
「え。あ、ああ。」
何故か一瞬、有楽町の顔がぎくりと強張った様な気がした。
「ちょっと新木場行った時に汚してさ、たまたまスペアがなくて。買ってきたので代用したんだけど…。…ど、どっか変?日比谷。」
−どうしてそんな妙に落ち着きがないんだい、有楽町。
思わずそう突っ込みたくなる程に有楽町は挙動不審になっている。
こんな時の彼は大抵何かを隠していると、長い付き合いから僕はよく知っている。
長距離を高速で走る商売柄、制服を汚す事は頻繁ではないけど、希にある。
制服の代用に市販品を着るのも良くある事で不自然じゃない。
「別に、変じゃないんだけど…」
でも、やっぱり何か違和感を感じる。
有楽町が今着ているのは、生地からして高級そうなYシャツ。
普段は、ダ●エーやユ●クロの様な量販店物御用達の有楽町にしては、とても珍しい。
襟の形やカフスがあまり見覚えがない形だったから、おそらくオーダーメイド。
−何故わざわざ「買ってきた」と言ったのか解らないけど。
その割りには首周りが少し窮屈そうで、有楽町は無意識に何度も襟口を弄っている。
袖も少し長めでサイズが合っていない様に見えた。
Yシャツといい、挙動不審な態度といい、見れば見る程どれもこれもが違和感だらけだ。
そういえば、さっき「新木場」がどうとか……。
瞬間、点と線が繋がった様な気がした。まるで何処かの名探偵にでもなった様な気分だ。
目の前の挙動不審者(有楽町)を見ると、心なしか顔が少し赤い。
−ああ、なんだ。そういうコト。
僕は益々確信に繋がった気がした。
多分そのYシャツは、誰かの私物で、有楽町のものではないんだろう
わざわざ「買ってきた」と言ってる辺り、借りた事を隠しておきたかったのかもしれない。
それに「新木場」で汚したとも言っていた。
…と言うことは…
−これ以上考えるのは無粋な気がした。ていうか、考えたくない。
僕が考えを放棄しかけた時
「日比谷?どうしたんだ、急に黙って。」
考え込んでいる僕を不審に思ったのか、有楽町が声をかけてきた。
「…ああ、ごめん。なんでもないよ。それじゃ、僕これから会議だから」
「??お、おう」
ぽん、と有楽町の肩を叩いてから去り際に
「勤務時間中にりんかいと仲良くするのも程々にね。」
−満面の笑顔で言ってやった。
「…………………!!!!!!」
後ろの方から「何で知ってんだ?!」と叫び声が聞こえた。
見えないけど、彼の顔色が赤から一転、真っ青な顔になっている事は想像に難くない。
僕は聞こえない振りをして、そのままさっさと廊下を歩いて行った。
…でも
「…でも、少し有楽町が羨ましい、…かな。」
暫く歩いてから何故かそう呟いて、足がピタリと止まった。彼の姿が脳裏に浮かんでしまったから。
何となく居たたまれなくなってきて、窓の外を見る。今度は僕の方が挙動不審者だ。
「…そういえば、うちの本社と彼の会社は、そう遠くない位置にあったっけ」
そんな関係のない事を考えて苦笑した。
また窓の外を見る、彼が今走っている方角を向いて。
彼は今日も彼の大切な人と自分の為に走っているのだろうか
何かを切り捨てて、僕らを、僕の様にまた
誰かを踏み台にしているのだろうか
「日光…」
誰にも聞こえない小さい声で
決して届くはずのない声で
愛しく、苦しく
彼の名前を呼んだ。
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りんかい×有楽町と見せかけた日光←日比谷片想い小ネタ。
日光と伊勢崎見ると、誰か日比谷を早く幸せにしてあげてといつも思うんだ……!
日比谷と銀座様は、有楽町の挙動不審さからりんかいとの仲をこっそり把握しているといいなぁとか。
有楽町は割とボロを出しやすいキャラだともっといい(不憫なキャラなだけに)
因みに、有楽町が新木場でどうしてYシャツ汚したのかはご想像にお任せします(爆)
2008/05/17